割愛の語源

割愛の語源について、知っているだろうか。

割愛とは、本当は省略したいものをやむなく省くことを意味する。なので、省略する行為に加えてその主体の思う「もったいないけど...」という愛おしい気持ちが込められた、愛らしい言葉なのだ。

語源について2つの説がある。

一つは、仏教用語として用いられていたとする説である。

古くは鎌倉時代の仏教説話集たる沙石集。「割愛出家の沙門、何ぞ世財をあらそはん」という歌がある。現代語訳するならば、「世俗への愛着を断ち切って出家した修行僧が、なぜ世俗の中でもてはやされる財産などに執着することがあろう」となるだろう。

坊主にとっての俗世への思いが愛着なのであれば、それを切り離すことが愛着となろう。なくなく置いていかなくてはならない、というニュアンスは確かにそのままである。

もうひとつは、養蚕用語として用いられていたとする説である。

蚕は雄と雌が交尾の際に、固く結び付けられて何日も離れないことがままあるらしい。何日にも渡って交尾を続けると、疲れて弱ってしまい蚕が死んでしまうおそれがあるから、交尾する蚕を引き離していたらしく、この作業について割愛と言っていたというのである。

どちらもしみじみと趣深いものである。割愛という言葉から漏れる慈愛に、ふと気づいた夜。意味を調べてよかった。